第45回湘友会セミナー報告

日時: 2016年 9月10日(土) 14:00 ~16:00
場所: 湘南高校 歴史館スタジオ
主催: 湘友会
協力: 48回生有志
テーマ:「知的障がい児の社会参加を支援するNPOの活動」
講師: 内海 邦一氏 (48回生、新聞部OB、NPO法人 ドリームエナジープロジェクト副理事長)

「先生、運動場使ってもいいですか?」
「うん、どうじょぅ」
こんな超ショートコントもありの第45回湘友会セミナーについて、講師を務めた内海が自らご報告いたします。

今回のセミナーでは、長男の隼吾(写真左 22歳 ダウン症)にも登場してもらいました。理由は二つあります。

① 「知的障がい者の社会参加」というテーマは、とかく硬い話になりがち。そうしない ために、隼吾との掛け合いの「超ショートコント」というお笑いの要素を取り入れるこ とにしました。

② 津久井やまゆり園の悲しい事件では、犯人の男が「知的障がい者は社会的に不必要な人間だから死ぬべきだ」と供述しているようですが、「知的障がい者は、決してお荷物なんかではなく、1人1人がこの社会では欠かせないメンバーである」と、知的障がい者の親として確信しています。でも、知的障がい者が身近にいない人にとって、「欠かせないメンバーである」ということは、頭ではわかっていてもなかなか実感としてとらえるのは難しいのではないでしょうか。そこで、隼吾を間近に見てもらい、声を聞き、表情を見ていただくことで、知的障がい者もまったく同じ、愛すべき人間なのだということをより実感していただけるのでは、と考えました。

では、講演の概要です。

あいさつに続き、上記の津久井やまゆり園の事件に触れ、「“知的障がい者がともに生きる社会” の豊かさ・温かさを、もっともっと多くの人に伝えていかなければならないとの思いを、この事件をきっかけにいっそう強くしました。」と結び、そして本題へ。

まずは、知的障がい者やダウン症に関する基本的な知識をクイズ形式を交えながら紹介しました。

【出題例1】
「パラリンピック」は身体障害者のスポーツの祭典ですが、実はこの「パラリンピック」に、知的障害者も参加することができる。○か×か?

正解解は…〇

枠は狭いですが、パラリンピックには知的障害者に門戸が開放されている競技もあります。「陸上競技」「水泳」「卓球」の3競技です。難しい問題だと思って作ったのですが、ほぼ全員が正解。その理由は…リオ・パラリンピック日本選手団最初のメダルは、競泳男子100メートル背泳ぎ知的障がいクラスの津川拓也選手でした。このことが前日大きく報道されていたため、知的障がい者が参加できることは皆さんご存知でした。

【出題例2】
ダウン症のダウンとは、「アップ・ダウン」のダウンに由来している。○か×か。

正解は…×。

名が付く以前から症例は文献にあったのですが、似通った症状が特徴的に見られるということで、1866年イギリスの眼科医J. L. H. Down (ダウン博士) が独立した疾患としてひとまとめにし、症候群として報告したのが始まりです。
発見者であるダウン博士の名にちなみ、ダウン症候群と呼ばれています。

※ダウン症候群 (ダウンしょうこうぐん、英: Down syndrome) とは?
・体細胞の21番染色体が1本多く存在し、計3本 (トリソミー症) 持つことによって発症する、先天性の疾患群。
※このトリソミ-が最も典型的なダウン症だが、他にも転座型、モザイク型と呼ばれるダウン症もある。
症状…多くは様々な合併症を伴う。知的障がい、先天性心疾患、低身長、肥満、筋力の弱さ、頸椎の不安定性、眼科的問題などがある。ちなみに隼吾は左耳がほとんど聞こえていません。
平均寿命…数十年前までは平均寿命は20歳前後であったが、医療の発達により合併症の早期治療が進み、現在では平均寿命も60歳程度に延びている。
発生率…世界共通で、大体800人~1000人に一人の確率で生まれてくる。
原因…なぜダウン症が生まれるのか、原因は分かっていない。

つづいて、隼吾の子育てからNPOを立ち上げるまでの経緯をご紹介しました。
隼吾の可能性を探ろうと様々なことにチャレンジさせていく中で気づいたのは、知的障がい児には、本人はもちろん、親も、周囲の人たちもまだ気づいていない多くの可能性があるのではないか、ということ。ただ、それを引き出すためには時間と根気が要るということ。そして、確実に可能性を引き出すためには、知的障がい児にあった練習方法を提供できる「学びの場」が必要である、ということでした。その「学びの場」を提供しようと立ち上げたのが、「NPO法人ドリームエナジープロジェクト」です。

NPO法人ドリームエナジープロジェクトの事業は、次の4つの柱からなっています。
① 知的障がい児の“カルチャースクール”である「ドリプロスクール」の運営
② 知的障がい児のお仕事体験「ぷれジョブ藤沢」の事務局運営
③ その他、知的障がい者によるライブや公演活動
④ 知的障がいについての講演活動など(この日のセミナーもその一環)

 

(ドリプロスクール 書道講座作品より)

当NPOのホームページでは、写真入りで各事業の報告をしております。是非一度、のぞいてみてください。

私もドリプロスクールの講師を務めています。その講座の一つが「コミュニケーション」です。知的障がい児がいろいろな人と触れ合うときに役立つ知識や知恵や一芸を教えています。

その目玉が“超ショートコント”。落語家が一人二役で演じてみせる小噺(こばなし)を、二人の掛け合いでできるようにしたものです。知的障がいの子が、家族や友だちと組んで皆を爆笑の渦に巻き込む。それを目ざして練習しています。その一部を、隼吾との掛け合いでご紹介しました。冒頭の作品以外にもいくつかご紹介しましょう。

〈もらった!3連発〉
内海「おいしいステーキをもらった」
隼吾「まあ、すて~き」
内海「おいしいブドウをもらった」
隼吾「キョホー!」
内海「おいしいズワイガニをもらった」
隼吾「ばん、(万歳の動作を途中で止め、1,2秒間をとってから、両手を挙げる)ズワーイ!」

概ね以上のような講演でした。とにかく“肩が凝らず、楽しく、わかる”セミナーを心がけました。

ご清聴ありがとうございました。

※隼吾の右は妻の智子 (さとこ NPO理事長)。会場からの質問に答えてもらうなど、一部手伝ってもらいました。

ところで、今回は同期48回生の仲間の協力がなければとてもなしえなかったセミナーでした。
NPOのことを湘友会セミナーで話してみないか」と、私に声をかけ、すべてをお膳立てしてくれた関くん。軽妙な司会で私の肩の力を抜いてくれた石塚くん。パソコンがフリーズしたときにサッと駆け寄ってくれた赤石くん。そして、このご報告の写真すべてを撮影してくれた伊藤さん。中でもこの集合写真は、ぶどう畑にたわわに実るぶどうのような、たくさんの笑顔を摘みとっていただきました。

さらには、聴衆として駆けつけてくれた多くの48回生。そして、テーマに興味を持って駆けつけてくださった大勢のみなさん。ありがとうございました。

それから、事前の準備から当日の進行までのもろもろを滞りなく執り行って下さった石井さまをはじめとする湘友会のみなさま、ほんとうにありがとうございました。
 
と、ここでこのご報告を締めるつもりだったのですが、書いているうちにある思いがふつふつと湧き出てきて書かずにはいられなくなりました。それは「学年同窓会」のことです。

私たち48回生は幸い「学年同窓会 (卒業年1973年の73にちなみ、波の会といいます)」を立ち上げてあり、2年に一度集まって旧交を温めたり、そこから派生した様々な集まりやイベントを行ったりしています。

しかし、なかにはクラス毎の同窓会は行っているものの、学年全体を束ねる同窓会の組織がない学年(期)もあると聞いています。私の経験から申し上げると、それは非常にもったいない。湘南高校を卒業したメリットの、かなり大きな部分を享受出来ていないという気がします。

学年会を組織したくても、何から始めていいかわからない、という人がいるとしたら、そういう人や学年のために湘友会として何かできないだろうか、というご提案です。

私がとりあえず思いついたのは「学年会結成相談窓口」です。具体的には割愛しますが、この窓口を利用することでより多くの学年会が結成されれば、土曜講座や湘友会セミナーの講師候補もさらに幅広い人材がリストアップされ、皆で集まる機会が増えれば、それだけ湘友会も話題に上り、その結果5年会費の納入者も増えるはずです。(笑)

湘友会や母校にとってのメリットも計り知れないと考えますが、いかがでしょうか。

内海邦一 (48回生)