第55回湘友会セミナー報告

・日 時: 2017年 7月29日 (土) 14時~16時
・場 所: 湘南高校 歴史館スタジオ
・テーマ: 「徒然草」で楽に生きる
・講 師: 山田 (森重) 喜美子(全45回生)

<内容要旨>
40人もの方々にご来場いただいたことに、まずは御礼申し上げます。
「徒然草」とその作者兼好法師について、以下の5つのテーマに沿ってお話をいたしました。

1) 「徒然草」の著者である兼好は、どんな人物であったか

生没年ともに未詳で、1183年頃?~1252年8月まで生存確認できるというのが、現在知られているところです。当時の貴族階級の下層に属し、鎌倉(及び現在の横浜市金沢八景)に京都から2、3回来て、数ヶ月から1年近く滞在し、鎌倉武士とも交流がありました。30歳前後で出家し、歌僧として京都宮廷の上層部とも面識があり、また南北朝期には足利尊氏とその側近高師直ともつながりを持っていました。
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2) 人気が出たのは江戸時代

「徒然草」は写本で伝えられ、一部の歌人や連歌師に読まれていたようですが、江戸時代になって出版ビジネスが成立して、1613年に印刷・出版され、一般に広まりました。この頃は他にも「源氏物語」「枕草子」「伊勢物語」等々、古典文学が続々と出版され、大衆にも広がる機運があり、「徒然草」も当時の文人たちが注釈書を次々と出したことで一般人に読みやすくなりました。
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3) 「徒然草」の主なテーマ

兼好は多岐にわたって、さまざまな事柄や話題を採り上げていますが、大ざっぱにまとめると、人・欲・死という3つのテーマになろうかと思います。「人」というのは、社会で生きていくうえでの人付合い、世間への対処法ということで、兼好は「勝とうとするな、負けないようにしろ」と言い、世間に対しては「口数を少なくしろ、余計なことをしゃべり散らすのは賤しい」と言い、世間の噂はほとんどが嘘だから、慎重に対処しろと言います。

また、「欲」について、生きていくうえで必要なのは、餓えず凍えず雨露をしのぐこととし、しかし人は病気をするものだから、衣食住に薬があれば、それで充分だと言っています。この4つの物以上を望むのは贅沢である、と。

最後に、兼好が最も力を入れて書いているのは「死」についてです。人は必ず死ぬものですが、いつ死ぬかは予知できません。彼は、「死は向こうからやってくるのではなく、いつのまにか背後に迫って、いきなり後ろ首をつかむ」と言っています。そして、「この世は予め決まったことはない。この世はあてにならないと思っていればまちがいない」という結論に至ります。
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4) 「徒然草」の文章の特徴

江戸時代から今日まで一般に親しまれたのは、その文章の歯切れの良さにも起因しています。また、章段の始まりに、まず結論や問題提起が短文で掲げられることも多いので、つまりキャッチコピーが上手と言えます。たとえば、22段「何事も古き世のみぞ慕はしき(昔は良かった)」、142段「心なしと見ゆる者もよき一言いふものなり」などなど。

いわゆる箴言、アフォリズムと言えそうな文句が多く、今でもパーティーや集会でスピーチを求められた時に使えそうな言葉が次々に見つかります。
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5) 兼好の物の見方

多くの場面でうまく使える文句が多いとはいうものの、「徒然草」がいわゆるハウツー物や人生指南書と一線を画すのは、一つのテーマについて一方的に決めつけることがない点です。物事を必ず両面から見る。一つのテーマを相対的に考察するという態度が顕著です。たいした用もないのに他人を訪問するなと言いながら、とは言え、暇な時にふらっと友人が来て話しこんで帰るのは嬉しいとも言います (170段)。また酒飲みの醜態を描いて非難したかと思えば、雪月花の折に気の合う同志で飲む酒などは格別とも言います (175段)。

理屈っぽいなかにも、一方的に意見を押しつけるのではないところに、「徒然草」が長く人気を保つ秘密があるのでしょう。

山田 喜美子 (全45回生)

以上
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