第65回 湘友会セミナー報告

  • 日時: 2018年 5月19日(土) 14:00~16:00
  • 場所: 湘南高校 歴史館スタジオ
  • 演題: 体験的官僚論
  • 講師: 49回生 木戸康雄 氏

今回のセミナー講師である木戸康雄氏は、1979年から34年間霞が関農水省の事務官キャリアとして仕事をされてきたわけですが、このレポートを書いている私は、外資系の自動車会社で過ごしていたため、霞が関というと仕事の上では、国土交通省・税関にかかわる財務省および厚生労働省との接点があるだけでした。

とはいえ、自動車などは一般のユーザーが使用する複雑な工業製品なので、外国から輸入し日本国内で走らせるためには、膨大な文書とデータを関係する省庁に提出する必要があります。

また、遵守するべき法律や税制も多岐に渡り、その内容も頻繁に更新されるので、それらを遵守するだけでもマンパワーと専門的な知識が要求されました。私にとって、霞が関の各省庁は、遵守するべきルールの発信源だったわけですが、その組織の内側がどのようになっているのかは、ニュースや新聞で報道される事柄以上の内容は不明であり、ブラックボックスでした。

木戸氏の講演は、前半が事務官キャリアになるまでのプロセスと仕事の中で関係があった政治家との話であり、後半は、「採用」「人事」「昇進」「天下り」などの人事を中心にした話で構成されていました。

湘友会セミナーでは、いろいろな分野の方が、過去にかかわってきた仕事をベースに講演をされますが、その内容は、民間の企業であっても大学の機関であっても、「何をしてきたのか」「どこが難しかったのか」「何ができなかったのか」という仕事の成果が話の中心に据えられます。その話の中で人事や組織の話が前面に出てくることはまずありませんが、木戸氏の話は、仕事の成果の話よりも、人事の話にかなりのウェートが置かれていました。また、人事のキャリアパスと収入についても説明があり、その最後の「天下り」が行われる背景と収入との関連について話がありました。

私の娘の通う大学では、学生起業家を多く輩出していますが、あるセミナーに登壇した若い企業経営者が、大学生に対して会社のカラーはどのように決まるのかを説明したことがありました。その経営者は、「会社内の人事の評価方法が会社組織のカラーを決める。」という説明をしましたが、私は、うまいことを言うものだと感心しました。「人の評価基準やその方法」は、小さなベンチャー企業であっても国の官僚機構であっても組織の性格づけに大きな(否決定的な)影響を与えるはずです。

木戸氏の説明は、一つ一つは、大変面白く、興味深かったのですが、官僚機構そのものは、よく言われるように、一つの閉じられた巨大な「村社会」であり、組織内部の物差しとルールで全体が機能していることが理解できました。

50回生 坂井一敏 記