第75回 湘友会セミナー報告 「ニーズをかたちにする方法」

日時: 2019年3月16日(土) 午後2時~4時
場所: 湘南高校 歴史館 スタジオ
テーマ: ニーズをかたちにする方法
講師: 小島隆矢氏(60回生、早稲田大学科学学術院教授)

今回の湘友会セミナーは60回生、早稲田大学科学学術院教授の小島さんをお迎えし「ニーズをカタチにする方法」と題して3月16日に開催されました。小島さんは東京大学工学部建築学科卒業、東陶 (TOTO) 機器に入社され、東京大学で博士号を取得すると建設省に入省、その後、独立行政法人建築研究所で主任研究員を務められ、現在は早稲田大学教授という経歴をお持ちです。小島さんのご専門は「建築環境学と環境行動学」です。住居・建築・都市といった環境をより良いものとするため、広い意味での顧客 (=利用者・居住者・所有者・管理者・市民) の意識と行動 (=特にニーズ・CS=Corporate Social Responsibility 企業の社会的責任・顧客満足) に関する調査研究を行い、広く環境づくりに役立てていくことがテーマです。この分野では広範な協力と連携が必要となり、産官学に渡る小島さんの実務経歴はとても役立つということです。小島さんの現在の研究テーマには湘南地域にも必要な「観光地の再訪要因」や、高校野球に欠かせない「野球場に関する高頻度観戦者の意識と実態」、さらに神奈川県から委嘱された「産学官連携による人工知能を活用した犯罪・交通事故発生予測技法」などがあります。私たちにとって、とても身近で有益なテーマにちがいありません。成果がとても期待されます。

近年はCSが進んでいる時代ですが、それでも建築設計にニーズ・CSの反映は十分ではないのではないかという課題が提示されました。日本の広義のものづくりの発展を考えると、昭和20年代は生産性追求の時代であり「いかに作るか」が問われ、昭和30年代はセールスの時代で「いかに売るか」、昭和40年代はマーケティングの時代で「新たな需要の創造」が「ものづくり」の課題であったと分析されました。今日では、ものづくりにも沢山の要望や必要な事柄が犇めいていますが、それを明らかにして、賛同を得て実行して行くのは、まさしく現代こその課題であったということが解りました。「ニーズを的確に捉えて相応しいカタチにする」ことができれば、私たちの営みはもっと快適で豊かなものになるに違いありません。ところが、ニーズに価値と意義を見出して、かたちにする試みを始めても、その方法はといえば、実は大課題であるに違いありません。

今回のセミナーでは、「住宅建築」を取り上げて、セミナー参加者に2枚のインテリア写真を比較して頂き、その理由を説明して頂き、さらに高次のニーズ分析することから「ニーズをカタチにする」方法を探ってみるところまで進みました。顧客のニーズに従って設計することは、簡単に思えて、実は研究対象になるほどの課題であることは容易に理解できます。

小島さんは、顧客のニーズの曖昧さや、気づかなかったことを、「なぜ?(=ニーズ)」という問いかけを発して探求しています。そこから、新たな真のニーズを引き出すことを試みて、ニーズを形成して行くことが大切だと言います。そして、それらを顧客にフィードバックして提示し、共有することが必要だと説明されました。その過程を通じて、その成果を「カタチ」として実現させる試みを探求されています。しかしそこでも衆愚設計に陥らないために真のニーズを「設計目標」と捉え、表面的に過ぎないニーズは代替案の可能性を考えることも必要ということで、これが「設計とは何か」につながる一つの要であることを示唆していると思われました。そこで、さらに重要な「真のニーズ」を把握するための方法として、小島さんが取り組んでいる「評価グリッド法」が紹介されました。そこでの実例紹介では「国土交通省営繕部における公共施設計画でその建物で働く職員のニーズを調査し効果をあげた事例」が解説されました。また「二世帯住宅の玄関は一つが良いのか二つが良いのかといった身近な課題では設計プランの工夫で解決ができる」という朗報がありました。そして「景観」論争では「景観づくりは目標づくりから」といった示唆に富んだ解決方法も導き出されていきました。

セミナーを通じて「ニーズをかたちにする方法」の研究と実践は、これからの環境づくりにとても大切なテーマであることが修得でき、大きな期待が寄せられました。当日は湘南高校2年生と3年生の在校生の参加がありました。楽しく緊張感のあるセミナーでした。