湘南卒業生たちは、どこでどのように働いているのか、その素描から試みよう。
全回答者1,775人のうち、現在就業しているのは1,611人(91.0%)、現在は就業していないが過去に就業していたという人は141人(8.0%)。すなわち、湘南卒業生の99%になんらかの就業経験があるということになる。調査ではこの99%の卒業生に、どの業界で働いている(働いていた)のか、(1)学界、(2)芸術・創作、(3)経済界、(4)官界、(5)スポーツ、(6)教育、(7)政界、(8)法曹界、(9)医療、(10)報道・マスコミ、(11)技術・IT、(12)その他、という12の選択肢※1から選んでもらった 。
回答分布は、図表1のとおり。(3)経済界と(11)技術・ITだという卒業生がそれぞれ2割ほど。それに(9)医療と(6)教育が続き、卒業生のおよそ3人に2人が、これら4つの領域のいずれかで働いていることがわかる。
では、湘南卒業生の働き方を「職業」という視点からみると、どうなるか。
図表1の分類は湘南卒業生調査オリジナルのものだが、職業については、首都圏男子大卒調査や浦和卒業生調査、開成・灘卒業生調査にも、ほぼ同様の項目を設定している。そこで比較できるかたちでデータの再整理を試みたところ、図表2に示す分布が確認された。なお、他集団は、いずれも男子のみで構成されるため、湘南卒業生については、男女別に集計した結果も載せている。ここからは次の点が指摘されるだろう。
まず、男性の場合、浦和卒業生の分布とかなり似通っている。一般大卒よりは少ないものの、やはり企業に勤める者が多い。3人に2人が企業勤務であり、1割弱の比率で、公務員、医師、研究者と続く。開成・灘卒業生とは、「医師」比率の部分でやや開きがある。
他方で女性は、男性に比べて企業以外の場で仕事に従事する人が多い。とくに注目されるのは、「教師」11.0%という値だろう。湘南を卒業した女性の10人に1人は、教員免許を取得し、教壇に立っている。加えて比率の大きさでいえば、「その他専門職等」17.2%も気になるところではないか。この値の内実をデータで探ったところ、とくに何か特定の職業が多くを占めるということはなかった。弁護士や会計士、薬剤師、看護師といった多様な職業が合わさった結果としての17.2%という値だったが、だとすれば先の教師の結果も含めて、女性卒業生の場合、「資格職」として働く傾向が強いとも言えそうだ。
ただ、やはりマジョリティは企業勤務者である。では、湘南卒業生たちは、どのような企業に勤務しているのか。この点についても確認しておこう。
図表3に業種、図表4に企業規模を示した。職業であれば「医師」の部分で開きが確認された「湘南(男性)・浦和」と「開成・灘」だったが、いずれの4校とも「製造・建設業」と「金融保険業」で過半数を占め、そして同じく過半数が「従業員数5000人以上の大企業」勤務だという共通点が見出せる。これがいわゆる進学校を卒業した男性の主だった勤め先ということなのだろう。なお、湘南卒業生(女性)には、男性と比べてサービス業等が多く、中小企業で働く比率が高いという様相が見受けられる。
さて、ここまで働き方を「業界」「職業」「(企業勤務者の)業種」「(企業勤務者の)規模」という基本的な変数を用いて確認してきた。では、これを「所得」や「役職」という変数から眺め直すと、どのような特徴が浮き彫りになるか。続く第3回では、企業勤務者に焦点をあて、この問いに迫ってみたいと思う。
【コラム執筆者】
濱中 淳子
教育社会学者、教育学博士。
東京大学高大接続研究開発センター教授を経て、
現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。
専門は、教育社会学、高等教育論。