湘友会セミナー(第11回)報告

「湘友会セミナー」第11回は52回生の清宮美稚子さんを講師に迎え演題は「編集後記で綴る世界」でした。11月16日(土)の14時から16時まで歴史館スタジオで開催されました。

清宮さんは、東京大学文学部卒業後、音楽之友社に入社し、月刊誌「レコード芸術」の編集に携われ、その後、人文書で有名な「新評論」で単行本を手掛け、さらに1987年に岩波書店に移られたそうです。ジュニア新書編集部では「砂糖の世界史」「国際感覚って何だろう」「ハンドブック子どもの権利条約」などに携わられました。そして、岩波『世界』編集部に移り、現在は編集長として活躍されています。

岩波『世界』を読んで、現代の、今この時に必要な知識を身につけようと思わせる素晴らしい講演で、スタジオの参加者が引き込まれていきました。そして『世界』の「ぶれない軸」を「どう創ってきて、どう創っていくのか」という大切な命題の解答を得たかのような感動がありました。清宮さんは『批判精神ではなく、自分で考え、自分で発信する。手探りで勉強して生活する姿勢にこそ編集の本質があり、「政治」「経済」「外交」とも違う視点が貴重です。』と解説しました。その姿勢を何と呼ぶのでしょうか。「ジャーナリズム」なのでしょうか、それともこれは「リベラル」といったものなのでしょうか。講演が進むにつれて、それが『世界』の取り組みに違いないと会場の聴講者は誰もが感じたかのようでした。

清宮さん自らが、思い出深いという企画が、その背景と共に紹介されました。

  • 2005年1月号 ナオミ・クライン「バグダット零年―ネオコンのユートピア幻想に奪われたイラク」および2005年8月号ナオミ・クライン「台頭する災害資本主義」=のちの単行本『ショックドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の出版に繋がりました。
  • 2005年12月号 ロバート・フィスク「たったひとりの聖戦―オサマ・ビンラディン アフガンの荒野から孤独の荒野へ」=残念ながら単行本の翻訳権取得はできなかったそうです。
  • 2009年4~7月号 宇沢弘文・内橋克人 連載対談「新しい経済学は可能か」=その後、単行本「はじまっている未来」が刊行されました。
  • 2009年4月号 沢見涼子「ルポ・低所得者でも安心できる終の住処はどこに-高齢者住宅「保証人不要」「生活保護OK」の背景」=刊行直後、群馬県渋川市にある「静養ホームたまゆら」で火事があり、予言的なルポになってしまいました。
  • 2010年9月号 宮前ゆかり「国境を越える『言論の自由』―ウィキリークスの挑戦」=国境を越えるジャーナリズムが、今日ではうまくゆくことがある例の登場だそうです。
  • 2011年1月号 マイケルシュナイダー「原子力のたそがれ―米・独・仏のエネルギー政策分析から浮かび上がる再生可能エネルギーの優位性」=3.11「東日本大震災」の起きる前の発行でした。

『世界』編集部は6人で男女比は1:1、書き手は「後期高齢者」の著者の方から、20代のルポライターまでですが、若い読者をたくさん獲得したいということでした。岩波書店は今年、創業100年を迎え、総合出版社としてアカデミズムとジャーナリズムが2本の柱。ぶれない『世界』の編集長として「基本と役割を大切にしてゆく」という講演でした。