湘友会セミナー(第15回)報告

3月8日(土) 湘南高校歴史館において小林憲正さん (48回生/横浜国大大学院・自然科学研究機構教授) を講師に「アストロバイオロジー(注1):宇宙に生命のルーツと地球外生物を探る」をテーマにセミナーが開催されました。

当日は高校の現役生や親子でのご参加を含め40名以上の会員にお集まりいただき、ビジュアルで判り易い小林さんのお話にまさに「目からウロコ」の思いをされた方々も多かったことでしょう。


1. 講演内容

① 生命の起源の古典的シナリオ

ダーウィンやパストゥールなど有名な科学者から始まり、オパーリン、ミラーの実験を経て、生命の起源は原始の地球上での化学進化で生まれた有機物と考えられてきました。太古の地球の世界が古典的シナリオとして当時多くの人に支持されていました。しかし、その後の惑星探査がこの説に重大な疑問を投げかけます。

② 地球外有機物の発見

古典的シナリオにはいくつかの問題点が指摘されていたが、決定的になったのは地球に落ちた隕石からのアミノ酸の発見です。こうして生命の素は宇宙から来たと考える説が有力になってきます。その中でも宇宙の塵(宇宙塵)が注目され、この塵を集めようと、今まさに若田船長が滞在し、秒速 8kmで地球の周りを周回している国際宇宙ステーションでその実験「たんぽぽ計画」(注2) (注3)の準備が進められています。

③ 生命はいつどこで誕生したか

地球に届けられた有機物からどうして生命が誕生したのか。人間も含め体の原子組成は海水に近いが本当に海の中で生まれたのだろうか。1977年に発見された海底熱水噴出孔が海のイメージを一変します。高い水圧のため吹き出す海水の温度は300℃以上、ここが生命誕生の場ではないかと実験を通して考えられるようになりました。

④新しい生命の起源のシナリオ

1980年代に入ると生命の特徴的機能「代謝」と「自己複製」を担うたんぱく質と核酸のどちらが先に誕生したかという論争が始まりましたがどちらも簡単にはできません。ここで「複雑有機物」を介した化学進化を考えます。複雑な有機「がらくた分子」が淘汰を繰り返し、生き延びたものの中から生命の祖先(コモノート)が現れたと考えられています。しかし、最大の問題は地球上には生命誕生の材料が証拠として何も残っていないことです。

⑤ 生命起源の痕跡を宇宙に探る

そこで宇宙・太陽系に痕跡を求めます。土星の衛星タイタンにはメタンの湖が確認され、木製の衛星エウロパの地下には水の海の存在が確実視されています。メタンの湖に生物の可能性も考えられます。地球上の生物は宇宙環境では生存出来ないと考えられてきましたが、微生物の中には真空の中や酸素がなくても平気なもの、放射線・紫外線に強いものなども見つかっています。逆に地球の微生物の中には宇宙に飛び出しているものがいるかもしれません。宇宙ステーションの「たんぽぽ計画」ではこうした微生物の回収も計画されています。

⑥アストロバイオロジー

20世紀末、NASAの提案で「宇宙 (地球を含む) における生命の起源・深化・分布と未来を扱う学問分野」と定義される学問分野をアストロバイオロジー (宇宙生物学) と名付けられました。かつてはSFの荒唐無稽な研究対象と思われてきた宇宙生命が、現在では天文学、物理学、化学、生物学などの科学の分野の壁を取り払って進めるべき最先端の研究対象と認識されるようになりました。
自分の研究者生活も残り少なくなりましたが、もう少し掘り下げたいと考えています。

 

2. 報告者所感

参加してくれた現役生徒が一言「面白かったです!」と言ってくれました。後ろの席から拝見していると、参加者全員が微動だにせず小林さんの講演に聴き入っている様子が覗え会場全体に凛とした空気が漂っているのがよく判りました。
先日、書店で生命の起源を特集している科学雑誌に目を通しましたら、やはり小林さんのお名前が出ています。まだまだ進化・発展を遂げていく興味深い研究分野とよく判りました。今日のセミナーを契機にこれからも自分なりにしっかりフォローしていきたいと考えています。

最後に、セミナー当日まで最新情報をお伝えしようと準備頂いた小林さんに改めて深く感謝申し上げたいと思います。

報告:石塚敏明 (48回生)