第24回湘友会セミナー報告

12月6日(土)、46回生の岸本喜久雄さんを講師にお招きして、湘友会セミナーが、「長州五傑と工学教育の黎明、そしてこれから」と題して、湘南高校歴史館で開催されました。岸本さんは東京工業大学教授で機械科学がご専門です。工学部長をつとめられています。


工学ってなに」からはじまるお話では、Engineeringをどう翻訳するか考えた明治時代の賢者は学問として確立するために「工学」と訳し「工芸」とせずにいたことが、日本において重要であることを強調されました。

そしてつぎに「150年前の若者たちは」の問いかけで長州五傑が紹介されました。長州五傑とは明治維新の2年前、長州藩からロンドン大学に学びに行った若者5人、井上馨 (外交)、山尾庸三 (工学) 、伊藤博文 (内閣)、井上勝 (鉄道)、遠藤謹助 (造幣) です。ロンドン大学には 5人の偉業をたたえ「長州ファイブ」(Choshu Five) の顕彰碑があるそうです。

明治時代になり、日本の工学教育に教授の赴任を要請された英国では、5人の真摯な学びの姿勢に感銘を受けていました。当時のロンドン大学の英知は、日本に「教養・学問・実践の教育」を行う英断をし、工部大学校では 6年制教育を全て英語で行いました。第 1回生には東京駅、日本銀行の建築設計をした辰野金吾らがいます。世界のどこにもない科学実験設備が工部大学校に整っていたそうです。そして英国では日本の先進教育を、その後に逆導入したそうです。こうして長州ファイブから150年を記念して「日英工学教育シンポジウム」が開催されたお話がありました。命がけで渡英し学び、帰国の後は、世界の中の日本の近代化を考え、国家の礎を築いています。5人の学びへの真摯な姿勢が英国を動かし、明治期の日本の工学教育の先進性を導き、ひとづくり、国づくりに革新をもたらしていたことが特筆されます。

さて現在は」では、岸本さんは、実学を重んずる現代日本では、特に手を動かす実践が必要であると力説されました。そのうえで、「技術者はどんなことができるのか」という基本について、国際共通認識が必要で「国際エンジニア連合」への期待のお話がありました。さらに「国境を越える技術者、国際的流動化社会、企業活動の変化・多様化」から技術者の生涯学習継続の課題もあげられました。岸本さんは「機械とは広くエンジンであり、外部エネルギーや情報を有用な機能 (運動・力・情報) へ変換すること…どんなものを機能として引き出すかが設計科学だ」とその重要性をお話されました。
また「ご専門の機械設計」の歴史では、家庭電化製品の変遷と機械の安全設計、さらに金属疲労の課題についてお話しされました。

ご講演後、会場からは、熱心な質問が続きました。
質問の一つには「ハーモナイゼーションの学術の構築」についてがあります。
岸本さんは、サスティナブル社会で工学がどんな役割をはたして行けるのか、エコ技術・人口動態における高齢化社会でのQOL (Quality of Life=生活の質) などを総合した「Human Centered Design=人間中心のデザイン」を志向し、エンジニアの技術開発と探究・実践を社会が必要とするものに向かわせることが、これから必要になるとお話されました。

参加者は、静かな講演に聴き入り、「これからの工学」に夢を感じました。