第37回湘友会セミナー報告

「映画のすべて  作る、上映する、売る

講師: すずきじゅんいち (46回生)

すずきさんは、奥様の榊原るみさんとご一緒で、講演も並んで座られた。るみさんからしばしば質問やアドバイスが発されて、たぶん映画の製作もこのような形で進められているのではないかと思われた。

現在、日本では大手映画業界はTV局と共同製作をするケースが多くなっている。TV局にはCMルートがあるというのが、映画業界にとっては大きなメリットであり、TV局側は、製作した映画は、自局でTV放映出来るので、双方ともメリットがあるので、こうなっている。しかし、TV局は自局で放送出来る作品を作りたがるので、どうしてもこれらの映画は極めてTV的なものとなり、当然激しいセックスシーンや、激しい暴力シーンは出せない。つまりTV的な映画がどんどん増えて行き、業界の作品の幅がどんどん狭まっている。これは映画の衰退と言ってもいいかもしれない。

米国では、世界中で売ることを考えて製作されている。それは米国自体が世界から集まった人たちで構成された国なので、自国でヒットさせる映画を作る事は、世界で売れる映画を作る事でもある。
また、米国ハリウッドは、自らのリスクをヘッジする為、お金のある国に出資させている。バブルの頃に、日本はハリウッドの最大の投資家であり、少し前はドイツであり、最近は中東産油国だったり中国だったりしている。
また、映画製作は、出資者には節税効果もあるので、税金対策として出資されることもあり、バブルの時代は不動産屋がかなり映画に出資していた。

アメリカハリウッドでは、監督も儲かることを目的に映画を撮ることが多い。それは利益の分配が監督にもあるからだ。勿論他にメインのキャストや脚本家などメインのスタッフにも分配金はある。
それらを取り纏めているのがプロデューサーであり、米国では監督よりもプロデューサーの力の方が強い。原則的に映画の利益の半分は出資者に分配金として配当されるが、残りの半分は、プロデューサーが取り、それを監督や主要スタッフやキャストに分配するのが普通である。

一方日本では、監督の力はプロデューサーよりも強いのだが、利益分配金がプロデューサー含めほとんどないため、映画で金銭的な利益を得る事よりも、芸術的だったり自己満足的な作品を作る事が多い。つまり日本では、映画は多くの人に見てもらう様に作る方向に向いていない。
これが日本の映画産業がどんどん落ちている原因でもあるのだが、撮影所が健全に膨大な利益をあげていた何十年の前の時代の製作システムで、現在でも相変わらず映画を作られているので、なかなか米国型の産業としては、ある種まっとうなシステムになっていないという問題もある。

これらの話は、所謂エンターテイメント=娯楽映画についてであり、極めて少数の人を対象にしたエクスペリメンタル=実験映画や、それよりは多少はターゲットが広がってはいるが、芸術的だったり主義主張を主に描く事をテーマにしたインデペンデント=独立映画とは違っている。
つまり現状の日本の映画状況は、エンターテイメント映画がTV業界的な作品ばかりになっており、その他の映画は余りにメジャー感の少ない作品群が増えているのが大いに問題だと思われる。

映画製作は、プリ・プロダクション(企画準備期間)、プロダクション(撮影)、ポスト・プロダクション(編集・録音)という過程を経て完成され、作品となって配給され、劇場で上映=興行され、DVDなどが販売され、あるいはTV放映されて観客に届く。

ついでながら、TVはスポンサーの為に作られていると言っても言い過ぎとは言えないが、映画製作は、より自由なスタンスで作られる。例えばTVではスポンサーが自動車会社なら、犯罪者が車で逃亡したりする事は制限され、そうした撮影がされる事はほぼないが、映画ではそういう事はない。これは、講演会では話していないが、TVが「制作」という言葉を作るのに対し、映画では「製作」という言葉である。つまり映画が作る方の「製作」なのだが、TVは制限する「制作」なのだ。

さらについでながら、映画でお金を出した会社は「製作」と表示されるが、その下請けというか、実務をする会社は「制作」と表示される。一方TVではTV局でさえ「制作」である。

映画監督の仕事は、何をしているのかなかなか人に理解されにくい。それを敢えて大雑把に言えば、「人を見る」ことと言えるかもしれない。つまり、撮影をするカメラマンやセットを作る美術家でもない、勿論演技をする俳優でもなく、実際は映画を作るのをそうした人に任せている。監督は、そういう人たちを見て、その人の才能や可能性を考え見極めて、彼らを十分仕事がし易いように導いて行くのだ。それが監督業と言えるだろう。

7年近くの助監督生活で、25人程の映画監督の助監督として映画を作る助手をして来たが、その中で断トツに神代辰巳さんは、すばらしい仕事をされていた。
演出という言葉が監督の仕事として言われるが、まさに柛代さんの俳優から「演」じ「出」させるのは、多くの、演技力がそれ程ないような新人俳優本人自身からも想像出来ないような ─── 演技。それが出て来るので驚かされた。