第4回「湘南卒業生の働き方 (3)」… コラム「湘南生解体新書」

コラム「湘南生解体新書 ~ エビデンスに基づく『すごさ』の検証」
第4回「湘南卒業生の働き方 (3)」
濱中 淳子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
解消しない男女格差

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」が成立、施行されてから30年以上が経った。職場における男女の差別を禁止し、募集や採用、昇進、教育訓練などの面で平等に扱うことを定めた法律だが、いまなお立法趣旨にほど遠い状況が続いているという実感を持っている。現状を知るためのデータを2つ出しておきたい。

一つは「賃金」である。厚生労働省『賃金構造基本統計調査』によると、2018年現在、大卒・大学院卒の年間賃金は、男子629万円、女子435万円。両者のあいだにはおよそ200万の差が生じている。

もう一つは「管理職比率」だ。厚生労働省『雇用均等基本調査』によると、2018年度の女性管理職比率 (課長職相当以上) は11.8%。しかもこの値は微減傾向にあり (2016年度の値は12.1%)、壁にぶつかっている様相がうかがえる。

世界経済フォーラム (World Economic Forum = WEF) が示したジェンダー・ギャップ指数 (Global Gender Gap Index = GGGI) をめぐる報道も印象的だった。GGGIとは経済・教育・健康・政治における男女格差を数値化したものだが、2019年における日本の総合指数ランキングは153ヵ国中121位。女性活躍の度合いは国際的にみて大きく遅れており、とりわけ経済と政治の分野の格差が目立つ結果となっていた。

企業人として働く湘南女子の年収

では、こうした現状のもと、湘南高校を卒業した女子は、どのような状況で仕事をしているのか。回答を寄せてくれた湘南女子は873名、うち現在就労しているのは740名。以下、企業の正規社員として働いていると答えた360名の状況をみていこう。

図表1をみてもらいたい。中央値を指標に年収の変化を示したグラフになる。比較対象として湘南高校を卒業した男子ならびに首都圏大卒男子のデータも載せておいたが、ここからは、同じ湘南高校卒でも、男子と女子とのあいだには大きな開きがあることが確認されよう。30代で200万、40代で300万、50代になると550万もの差をみることができる。

(図表はクリックすると拡大します)

しかしながら、他方で湘南女子の特徴は、首都圏男子大卒とほぼ同じ推移を辿っていることが見出せる。賃金の男女格差については、冒頭で述べたとおりである。「年収」と「賃金」は同じものではないが、図表1から、およそ湘南女子は、平均的な男子と同等もしくはそれ以上の対価を得ながら働いているといってよいだろう。データからは、1000万以上の年収を得ている湘南女子の比率は16.6%という結果も得られる。なお、首都圏大卒男子の場合、1000万以上の年収を得ているのは18.0%だった。

高年収を支えているのは企業規模

では、役職にも同じような傾向が確認されるのか。図表2は、年齢とともに役職がどのように変わるのかを示したグラフである。課長以上の比率を取り上げたが、一転して男子との格差が目立つ様相がうかがえる。湘南女子の場合、30代で10%半ばという課長以上の比率は、40代、50代と高まっているものの、男子との差は開くばかりであり、最終的に湘南男子とのあいだに40%ほど、首都圏男子大卒とのあいだにも20%ほどの開きが認められるようになる。

年収は高くとも、役職が伴っているわけではない――ここでデータを仔細にみると、湘南女子の高収入は、役職というより、企業規模によるものだということが見えてくる。従業員数5000人以上(パート・アルバイトを含む)の企業に勤務している湘南女子の比率は43%。湘南男子58%よりは小さいものの、首都圏大卒男子21%の2倍以上の比率になっている。そしてこの大企業に勤務する女子の年収は、概して高い。それゆえ全体として現われる数値も高いという結果になっていた。

先駆者としての役割

ただ、図表2については、「部長」比率の高さについても触れておくべきだろう。具体的な数値でいえば、50代首都圏男子大卒の部長比率は28%。対して50代湘南女子の部長比率は24%。その差はわずか4%であり、さらに言えば、湘南女子の場合は、とくに大企業で部長になっている者が多かった。

調査時点で50代だということは、30年ほど前に社会に出たということになる。1980年代に就職したということであり、冒頭で触れた男女雇用機会均等法が成立、施行される前後のことである。「これからは男女関係なく、活躍する社会であるべきだ」。景気が良かったこともあり、大企業に活躍の場を見出した湘南女子は、こうした均等法の理念をいち早く体現する先駆者としての役割を担っていたという見方もできるように思う。

生徒をひとりの人間として信頼し、自主性を尊重する教育方針を続けてほしい。分野でのリーダーが育つような自由な校風だった。

現在の日本でまだ足りていない、ダイバーシティ尊重の意識や、自立の考えが自然と身についたステキな高校でした。私が在学していた当時の校風がこれからも続く事を願っています。

これらはともに、大企業の部長職として働く50代の湘南女子が自由記述で寄せてくれた声である。彼女らのいまの活躍は「湘南高校に進学できるだけの資質」と「湘南高校という場」の両方が組み合わさって生み出された結果でもある。

そして似たような内容の記述は、「社長・役員・理事」として働く湘南女子からも寄せられた。その回答者は13人。うち7割が起業家である。第4回コラムの最後に、そのなかの一人の自由記述を引いておきたい。湘南高校の良さは、時間が経つにつれ、より深く実感できるもののようである。

“自主” の精神を育ててくれたと、非常に感謝している。先生方、仲間達、そして校風を築いて下さった先輩方への敬意は年を経るほど大きくなっている。よい青春時代でした。


【コラム執筆者】
濱中 淳子
教育社会学者、教育学博士。
東京大学高大接続研究開発センター教授を経て、
現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。
専門は、教育社会学、高等教育論。