第52回湘友会セミナー報告

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  • テーマ: 「現在の国際社会の課題」- 「ポピュリズム」について考える
  • 日時: 2017年 4月 15日 (土) 14:00~16:00
  • 講師: 鹿取克章(よしのり)(44回生)

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1. はじめに

スポーツ紙が浅田真央さんの引退報道を競って掲載している一方、シリアで化学兵器が使われた形跡があったとか、それに対して米国がトマホークを打ち込んだとか、極東ではこの4月15日にかの国の首領生誕105年を祝うイベントが行われ、失敗したといえども早朝からのミサイル発射とか、一般紙の一面記事にも事欠かない事件が世の中を騒がせている。 そんな今、まるで計ったかのような極めてタイムリーなテーマの講演が、ここ湘南高校で行われた。
鹿取克章 元・在インドネシア特命全権大使、現・外務省参与による、「現在の国際社会の課題」である。

当日、やや風は強いものの初夏を思わせる穏やかな午後のひと時、湘南高校の歴史館では、数十人の聴衆が鹿取氏の講演開始を待っていた。 講演に先立ち、歴史館に展示されている素描の作者、向山武志氏(55回生) のご挨拶、川瀬由紀夫(ジャカルタ湘友会 前副会長/55回生) による鹿取氏ご経歴のご紹介。その後、鹿取氏からご講演を頂くことになった。


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2. 講演内容

2016年は、ベルリンの壁が崩壊し戦後冷戦が事実上終焉した1989年に匹敵する激動の年として、未来永劫記憶される年になるであろう」

昨年末の世界各国のクォリティ・ペーパーには軒並みこのような論調が並んだ。 日本の一般紙もその例に漏れない。 そして、鹿取氏の講演は、2016年が未来永劫記憶される大きな要因となり、世界を揺るがした次の2大イベントに言及することで開始された。

  • 英国のEU離脱国民投票 (6月23日)
  • 米国大統領選挙 (11月8日)

どちらの結果も周知のことであるが、鹿取氏の切り口は、この2つの結果がポピュリズムに大きく左右されたこと、そしてそのような重要な決断を左右する「ポピュリズム」台頭に対する懸念が世間で高まっている、というところから始まっている。 そして世界はこの2016年から2017年初頭にかけて、まさに「ポピュリズム」を基盤にした論調で大きく変動しつつあるとも論じた。

そんな中、国際社会における「ポピュリズム」を前提にした課題として、次の2つを挙げた。

  • ポピュリズム的主張に適切に対応できるか?
  • 国際的政治闘争のエスカレーションをコントロールできるか?

「平和維持」という切り口でとらえると、上記のポピュリズム主張及び闘争のエスカレーションによって世間を取り巻く状況が混沌(こんとん)とした場合、関係主要国間の協力推進のため、お互いに必要な信頼関係を維持・強化できるかという、極めて重要かつ難しい対応を迫られる。

そしてその対応がスムーズになされない場合、ポピュリズム的政策は、上記の二つの課題を積み残した形となり、これまで育んできた安定のためのメカニズム及び抑止力を損ない得る恐れが十分にある。

そのような望まれない事態を避けるためには、自由な民主主義体制の維持が不可欠であり、それは市民それぞれが各々意識をもって担う役割ということになる。

具体的には、下記が挙げられる。

  • 政治および外交に対する積極的関心と関与: バランス感覚、寛容性、相手の視点・問題意識の理解、連帯感、社会的勇気。
  • 情報・議論には更なる注意を向ける: 偽情報の見極め、Fake News、扇動的表現、証明されていない情報の独り歩き、陰謀理論、特定の集団・国を総体として敵視する、といった偏った理論武装を避ける。

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3. 最後に

鹿取氏講演終了後、10分の休憩をはさんで質疑応答が行われた。話題がタイムリーだったこともあり、多数の方からの質問が相次いだ。 中には、超タイムリーな「かの国」問題も発せられ、鹿取氏も公人としての立場から、「これは飲み会の席で」としなやかに受け流した場面もあった。

質疑応答終了後に、次回講演のご紹介、集合記念写真を撮影して今回の講演は終了になった。歴史館の外ではラグビーの練習、サッカーの試合が行われており、多目的ホールからはブラバンが演奏する曲が漏れ聞こえてくる。

桜吹雪 舞う中、思わず考えた。 「この平和な光景が未来永劫続くために我々は何をすべきか?」 今回の鹿取氏の講演によって、市民として我々の役割は何か、という問いを突きつけられたことを厳然と意識させられた土曜の穏やかな午後だった。

(文責 川瀬由紀夫 55回生)