第47回湘友会セミナー報告

「映画を通して見るシンガポールの現代社会」 (2016年11月12日)

立教大学 アジア地域研究所特任研究員 盛田 茂 (43回生)

シンガポールは分離・独立(1965年) 後、時宜を得た産業構造転換とハブ機能強化を精力的に推進し、一人当たり国民所得(世界銀行:2015年) は52,090米ドルと、日本の36,680米ドル、旧宗主国英国の43,340米ドルを凌駕するまでになっている。この経済成功・高所得化を踏まえ、長期滞在邦人数は2015年10月1日時点で34,550人と、東南アジア諸国でタイに次ぐ第2位となっている (外務省2016年 要約版)。

本発表は、今年「日本・シンガポール外交関係樹立50周年」を迎えた両国の更なる相互理解を深めるうえで、重要な文化・芸術面を考察する好機だと考え、大衆娯楽の雄である映画ダイジェスト版を観ながら、監督たちが自らの作品で如何なる主張を展開しているのか、その社会背景も併せ紹介する事を目的とした。

同国の映画産業は、1980年代には長編映画製作が皆無という「停滞期」を経験したが、政府の支援政策もあり2015年には20作にまで回復し、カンヌなどの国際映画祭で受賞する迄になっている。しかし、政府の映画産業育成の一方で、歴史再評価を試みたタン・ピンピン監督の『シンガポールへ、愛を込めて』(2014年) は国内上映禁止措置を受けた。

とは言え、映画を含むコンテンツ産業発展は喫緊の課題であるだけに、政府は映画製作者の才能を必要としている。両者間に留まらず政府内部においても、中国語方言、LGBTなど「表現の自由」拡大を求め、躍動感に富んだ現実主義的交渉が展開されている。更に、両者の願望である国際市場進出・共同製作例として、政府出資に加え英・仏資本が参加したブー・ジュンフォン監督の「Apprentice」(2015年)、アンソニー・チェン監督が同国、タイ、中国の若手監督を招聘し製作した「Distance」(2015年) が挙げられる。多様性を希求する「新潮流」が顕在化しつつあると言えるだろう。

しかし、日本では今まで映画祭などの限定上映・紹介に留まり、ようやく2014年末、アンソニー・チェン監督の『イロイロ ぬくもりの記憶』とエリック・クー監督の『TASTUMI マンガに革命を起こした男』が全国公開されたのみである。更に今年12月3,4日、日本アセアン・センター内で開催された両国の短編映画47作を上映した「SJ50映画祭」は、シンガポールが10月の3日間で約1,000名が来場したのに対し、日本では両日で約100名と残念な結果となったが、主催者のトン君は「来年もやりたい」と意気込みを語っていた。

両国の更なる相互理解深化のため、文化・芸術交流は今後益々極めて重要になるだけに、厳しい環境下にも拘らず、故国に踏み止まり製作活動を持続する彼らの肉声をなるべく多くの日本の方々に伝えるべく、今後も映画紹介と支援活動を続けたいと考えている。

皆様のご協力・ご鞭撻を賜れば幸いである。