第42回湘友会セミナー報告

日時: 6月4日(土) 午後2時~4時
場所: 湘南高校歴史館スタジオ
テーマ: 「公正・不偏の視点から世界を捉える ~思い込みの世界史~」
講 師: 山口洋一氏(30回生)

外務省に入省し、マダガスカル、トルコ、ミャンマーの大使を歴任。40年間外交官人生を過ごした山口さんの体験から貴重なお話を伺いました。

いちばん強調されたことは「物事は一面的に捉えるな」ということでした。様々な文化・風俗・習慣に接してこられたご経歴の中で、これがいちばん感じた事と説かれます。

黒澤明監督の「羅生門」、仏典、ユネスコ憲章等を例に挙げられつつ、異なる民族・宗教・言語・文化の中ではより一層重大な意味を持つ価値観の多様性を認識すべしと強調されました。

一方で、日本人は欧米人の色眼鏡を通して、世界を見ようとする傾向が強く、大変心配なことでもあると訴えられます。歴史認識上の十字軍の意義、コロンブスのアメリカ大陸の発見、ヨーロッパの産業革命による発展を例にとり、我々が受け止める世界の歴史はすべて欧米人の視点から眺めたもの、であると。

さらに、現代に起きている世界情勢に目を向けても然り。例外なく欧米の視点からとらえられることが多いことの例として、いくつかの実例を挙げられます。

イラク戦争で、アメリカの言い分を一方的にそのまま報じたマスコミ。なぜなら、民主主義を唯一不偏の統治原則として世界中に広めようとするのも、アメリカの思い込みに過ぎない。成立のためにはいくつかの前提条件が必須。その条件がそろわない状況下では、かえって混乱を招くのみということ。

日本の戦国時代に織田信長が天下統一を目指している最中に、民主主義云々と説いても意味をなさないのと同じようなものと例えられます。
イラクの情勢は、アメリカの理屈、アメリカの視点で語られ、日本人はそれをそのままに信じてしまっていた。

もうひとつの実例は、ミャンマー。欧米の見方は、軍政=悪。昨今のただしい方向に向かっているミャンマーの基礎をつくった軍事政権の努力や功績を欧米はもっと認めるべき、と。

今一つの実例は、トルコの状況。アルメニア人の虐殺、クルド問題、キプロス紛争等が語られることが多いが、いずれも悪玉はトルコという見方が太宗を占める。
過去もそして現在も、私たち日本人の歴史認識は欧米人の色眼鏡を通じてみる傾向が非常に強い。これでよいのだろうか、との問題意識を強く訴えられました。
その意味で物事は一面的に捉えるのではなく、偏りのないもう一方の局面から見ることの重要性を繰り返し強調されました。

では、なぜ私たちは西洋人よりの見方をするのか? との問いに。
一番は戦後のアメリカの占領政策、また日教組主体の戦後教育であるとの考えを語られます。

しかし、果たしてそれだけかと考えると、もっと根深く、明治維新、文明開化の歴史がある、とも論を広げられます。文明開化、殖産興業、欧米の文物を懸命に輸入した歴史がある。当時、文明といえば、西洋文明と同義語だった。日本人の意識はすべて欧米に向いていた。

こういった歴史認識や実例を理解したうえで、「公正・不偏の視点から世界を捉える」ことの重要性を説かれたのです。

約90分間の講演終了後、現役生も含めた聴講者から、待ち構えたような活発な質問が寄せられました。以下は、質疑の要旨です。

Q: 中国の南沙諸島等への武力進出をどう考えるか?日本人はどう行動すべきか?
A: 日本人は、自分の国を自分で守るという気概を持つことが一番大事。今の国際社会は、不完全な制度しかないというのが現状。極端に言えば、力がものをいう無法地帯となっている。超国家的な公権力の実現に向けて、国際社会や日本が努力していくことが必要。

Q: 今後の日本のありようは、どうあるべきか?
A: 日本は、かつては個性豊かな国とみられていたが、昨今は顔が見えないとか不可解とかのイメージが強くなってきている。日本の国のIdentityには二つの要素、「立ち位置」と「中身」がある。「立ち位置」としては対米追随ではなく、独立自尊の国として毅然たる独自の立場に立つべきだ。「中身」は広義の文化すべてであるが、愛国心をもとにして伝統文化に立脚した日本文化を更に発展させる要あり。われわれはこのような日本のIdentityをもっと明確に意識し、対外的にも示すべきである。

Q: 「集団的自衛権」の持つ意味と、日本にとって他国の紛争に対しどのように関わることが有意義と考えられるか?
A: 内政干渉が許されないのは、その国や地域の実情を十分に理解しないままで国家体制の基本や政治体制への関与すること。この部分は、状況や歴史をよく理解している当該国の人々に任せるべきと考える。関与は、あくまでも側面的な支援にとどめるべき。

以上