第53回湘友会セミナー報告

テーマ: 日本の医療体制の特徴と医療費の動向
    (副題) 日本の保険医療は素晴らしいか
講師: 大久保一郎 (50回生)
    横浜市健康福祉局衛生研究所長
日時: 2017年 5月20日  14:00~16:00
場所: 湘南高校歴史館 
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【 講師の経歴と専門分野など 】

講師である大久保氏は、筑波大学医学群 (学部) で医師の資格を取得後、厚生省 (現・厚生労働省) に勤務し医療保険制度に関する分野に幅広く取り組みました。その後、筑波大学に戻り、医療統計や公衆衛生学を中心に研究を続け、現在は、横浜市健康福祉局衛生研究所に勤務しています。

今回の報告書は、医療分野には全くの門外漢である大久保氏と同級生の私が、自分の興味がある事柄を切り口にして、独断でまとめました。 


【 セミナーの内容 】
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1) 人口動態・平均寿命・健康寿命

人口ピラミッドは、何度見ても見飽きる事はありません。戦後のベビーブームとそのベビーブーマーの子供達が、日本の人口ピラミッドの形をいびつにしていることが良く分かります。

2050年に老人人口を押し上げるのは、ベビーブーマーの子供達が老人になるからという事になります。 「20年後のあなたは?」「そして あなたの子供達の世代は?」「また その子供達の世代は?」 ???。 政治体制や経済の分野では将来、世の中がどのように変わるのか、想像がつきませんが、ただ一つかなり正確に未来を映してくれる鏡が、人口ピラミッドという訳です。

健康寿命の定義は、 「痴呆や寝たきりにならない期間のこと。 日常生活に制限のない期間のこと」 となります。2010年度の数字は、男性70.42歳、女性73.62歳です。 
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(図1) 人口ピラミッドの推移 (総務省統計局・統計データより)
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2) 病院のベット数の国際比較および医師の数との対比

日本の場合、総病床数は人口千人あたり 14床で、諸外国と比較してもベッドの数は多いといえます。しかし、病院に入院している日数も長くなっています。一方、人口あたりの医者の数という点で見ると、医者の数は少なくなります。

項目1) の健康寿命の話と合わせて考えると、太く短く生きるのか? 細く長く生きるのか? というような人生観や死生観も、国の医療制度と密接に結びついているのだろうと解釈しました。

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(図2) 人口あたり総病床数の国際比較 (OECD統計データより)
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3) 国民医療費の推移と財源について

医療に要する金額の絶対値だけでなく、対GDP比率で過去からの推移をまとめたグラフは興味深いものでした。国民医療費の割合は対GDP比でみても、グラフは右肩上がりになっています。大久保氏より提示された資料は、以下の様な内容をまとめたものです。

  ・疾患別の医療費の合計
  ・財源別保険料 国庫 患者負担 の割合
  ・後期高齢者医療制度
  ・診療報酬制度

当たり前ですが、打ち出の小づちが有る訳ではないので、3) の話の骨子は、発生する医療費をどのような財源でカバーするのか? という極めてシビアな話でした。やはりGDPというお金の裏付けがないと満足な社会医療給付も受けられないことになりますが、これは、個人のレベルでの話も、国全体で考えた場合の話も同じです。国際比較の場合も対GDPという形で各国との比較がおこなわれました。

  年金: 米国を上回るが他の欧州諸国をやや下回る規模
  医療: 米国や欧州諸国を下回る規模
  その他給付: 米国を上回るが、欧州諸国をかなり下回る規模
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(図3) 国民医療費の推移 (厚生労働省・統計情報白書より)
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まとめ

今回のセミナーは、疾患に対して、どのように財源を確保し、どのように配分するのかという国の保健衛生に関するグランドデザインについて、要点を説明してもらったことになります。この問題は、生きている限り、誰もが必ず何らかの形で向き合わなければならない問題です。このセミナーでは、将来必ず自分が向き合わなければならない問題を、少し前倒しの形で垣間見ることができたと言えます。

また、私達の世代、その子供の世代というように時間の軸は連続的に変化していますが、その中で様々な政治的な選択がなされ、現在のそして将来の医療制度の仕組みが成り立っていることが良く分かりました。
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