第60回湘友会セミナー報告

「湘友会セミナー (内藤洋治君講演)  報告」
  • 日時:  2017年12月2日(土)  13:30~15:30
  • 場所:  湘南高校歴史館スタジオ
  • テーマ: サファリ (旅) と俳句
  • 講師:  内藤洋治(36回生)  俳号 霧野萬地郎
  • 講師紹介と本講演の狙い:
内藤洋治君は慶応大学卒業後、現パナソニックに入社、そしてわずか5年程経過した1971年に海外勤務となり、それもアフリカはウガンダ、そしてタンザニアへ。両国での6年間でラジオ工場の立ち上げ、技術指導、ラジオの普及などの激務をこなしてきた。そのラジオ工場のスタート時、不慣れな現地の工員たちの組み立てたラジオは数百台に1台しか音の出るものはなかったという。そんな不器用だけれど純朴な人々、壮大な風景、まさに動物園、植物園でなければ見られない珍しい自然に囲まれ、「よし、この感動を俳句に読みとめておこう」と思い立ったとのこと。その後もアメリカ勤務など、会社生活の半分は海外で生活、その後も世界各地を出張で回ったという。また、会社を卒業してからも奥の細道ではないが「漂泊の思ひやまず」年に2回は世界中を旅し、多くの俳句を残してきている。今回はその中で、アフリカ、東南アジア、南米、太平洋上の島などに焦点をしぼり、スタジオのスクリーンに膨大な量の、動画などを投影、その時々のエピソードなどを交え俳句を披露、旅の楽しさ、紀行句の素晴らしさを話していただいた。

内藤洋治君、俳号、霧野萬地郎は現在、藤沢が本部、全国に9つの支部を持つ俳句会「波」に所属、俳句誌「波」の編集を担当するなど中心的な役割をこなし、俳人として活躍中である。

  • 講演内容:
「タンザニアとその隣国」

俳号、霧野萬地郎は彼の愛する、アフリカ最高峰キリマンジャロをもじったもの、天気次第、現地にいてもなかなか全容を見ることは出来ないそうだ。キリマンジャロはヨーロッパ列強によるアフリカ分割時にはイギリス領 (現在のケニア) だった。1885年のベルリン会議の折、英国女王がドイツ皇帝ヴィルヘルムⅠ世の誕生日のプレゼントとしてこの山をドイツ領 (現在のタンザニア) に譲り、現在のタンザニア国のものとなっているなどの挿話あり。

霊峰は 湧き立つ霧に すぐ隠れ
日盛りや 象の糞おく 滑走路
虹かかる 地平線ゆく 象家族
長閑のどかさや キリン家族と 時過ごす

夜行性のため生き生きとしたライオンの姿は中々見られないが、食事の時の音には驚かされると

 ライオンの 顎の音する 冷まじや

食料を確保するため自分たちで作った菜園に西瓜を栽培、見事に育ったが、猿が早速荒らしにくる。するとその後ろから

西瓜盗る 猿を狙って 獅子きた
河馬の目の 動く水面みなもや 暑気払い

地域の歴史、国の成り立ち、今おかれている環境など良く調べられ

朝霧や 奴隷括りし 鉄の杭

アフリカの芸術品、黒檀彫刻原色ペンキの絵画等には、かのピカソが大いに影響を受けた。

黒檀に のみ打つ響き 日除け小屋
ペンキ絵の 獣らの和す 目の涼し

そして内藤家に男子誕生

吾子あこ生まる 蝶 群舞する 病院で

独立直後のモザンビークにて、まだまだ政情不安

日盛りの 街角ごとに 少年兵

「ラオスとハロン湾」
歴史的に周辺国との戦いに加えて、ベトナム戦争の名残が残っている。

ナパーム弾 解体されて ネギの鉢
玉眼冴え いく さやめろと 仏の手
あたたかき 冬やコーヒー 豆の房

敬虔な仏教国でもあり

托鉢へ 冬も裸足の 長き列
みかんもて 喜捨の並びに 加わりぬ
風メコン 象の糞から 紙 けり

この紙、現物が参加者席を回り、一様に匂いを嗅いでいた。匂いなし。

海外に子供用車椅子を送る会」の事業
タンザニアとラオスはこの贈呈に参加したミッションもあった。

年内に 届け少女の 車椅子

「ギアナ高地」
日本は秋たけなわの時期だが、季語の扱い方には苦労されたよう

夏草や 立つことならぬ ナマケモノ

凡そ高さ1000メートルのエンジェルフォール,水が落ちてくるまでに水しぶきとなり蒸発してしまうため、滝壷が無い。そして丸木舟などを使った長旅で案内されても運が良くなければ見ることが出来ないとか。

名瀑へ 篠つく雨の 丸木舟
滝しかと 見せたと水夫の 指の先
朝日サン エンジェルフォールの 滝頭たきがしら

「ボルネオ島」

ラマダンの 明けて涼しき 子らの声
オランウータン 木の実降らして 木の実取る
象の道 折れた葉先の 糸トンボ

「イースター島とタヒチ島」
3月の南半球、ここも季語で困ったか。歴史など、なぞだらけの島 (国はチリ)

イースター その日その名の 島に立つ
流星や たおれ 未完の モアイ像
伝承の 失せし孤島や 地虫鳴く
ゴーギャンの 往還の山 したたりぬ
産神の タトゥ躍るや 夏の月

「エルサレムとぺトラ遺跡」
この講演の直後、トランプ大統領の宣言で世界中大騒ぎだが、この地域の歴史、現状にも触れながら

雛罌粟ヒ ナ ゲ シや かつて戦車の 競技場
パレスチナ 自治区トマトの 輪切りかな
ゴルゴダの 丘へ斑猫ハンミョウ 桂馬跳び
風死すや ジェリコの丘は 海抜下
磨崖墓の 朱を染め上げし 大西日

「おわりに」
芭蕉は旅に病むほど辛いものがあったようだが我が宗匠は意気軒昂

旅に酔って 夢は花野を かけめぐる

「パワーポイント、プロジェクターなど使ったこと無い。どうしよう。」
などと、泣きが入ったことも有ったようだが内藤君、短期間のうちに見事マスター、スクリーンに映し出された野牛の群れの写真も突然動画に転換、スタジオのプロジェクター用の高性能スピーカーからは地鳴りの音、この日のために用意された俳句は何と115句。何と言っても誠意溢れる周到な準備、やさしい語り口が多くの参加者の心に響いた講演だった。セミナー委員会の皆様には細かい配慮を頂き有難うございました。

 私も明日は歳時記を買ってこよう。
田中幹男 (36回生)