第101回湘友会セミナー報告「子どもたちの科学への志を育てる」

■第101回湘友会セミナーが開催されました。
日時: 2024年1月27日(土)13時30分~15時30分
場所: 湘南高校歴史館スタジオ
テーマ: 「子どもたちの科学への志を育てる」

講師: 安田光一氏(全27回生) 前NPO法人「おもしろ科学たんけん工房」代表理事、元ソニー株式会社
山本明利氏(全47回生) 「藤沢市科学少年団」運営委員、「おもしろ科学たんけん工房」理事、北里大学理学部・教職課程センター教授

高度成長の時代が終わり、90年代以降社会全体の中で科学離れ・理科離れが心配される環境下、子どもたち (小中学生) の理科離れを防ぎ、理科好きの子どもが育ってほしいとの熱い思い、それに向けての活発な活動の数々をお二人に語っていただきました。参加者の方にも非常に参考となるお話も多々あり、楽しんでいただけたかと思います。参加者の中には過去に少年団に参加していた現役生の保護者もいらっしゃいました。

お二人は「子どもたちの科学への志を育てる」活動を進める中で偶然出会われました。安田さんが創立された「おもしろ科学たんけん工房」は2022年に創立20周年、山本さんが関わる「藤沢市科学少年団」は昨年創団40周年を迎え、それぞれ理科好きの子どもたちを育てるのに大いに貢献されています。講義終了後も参加者の方から数々の質問があり、活発な質疑応答を行ないました。

■セミナーの講演概要
<安田さんの講演>
A)「おもしろ科学たんけん工房」(以下「工房」という) の創立と展開
① 1980年代からの理科離れ

  • 国内製造業が韓国・台湾・中国・東南アジアへ。理系大学生が金融機関へ。東大工学部機械工学科が定員割れ。ゆとり教育政策が展開 (小学校では特に理科の時間が削減)。

② 「工房」創立に導いた契機 (ビジョン・理念)

  • 「発見工房クリエイト」との出会い: 理学博士橋本静代が子ども達に科学の世界の不思議さの体験を通して気づかせ、自ら考え創造する楽しさを知らせたいとの願いで創設。
  • 「エクスプロラトリアム」: 1969年に米の教育者・物理学者のフランク・オッペンハイマーが設立。最初期の体験型サイエンスミュージアムの1つ。
  • 「青少年のための科学の祭典」(創造性豊かな人材の育成が重要。日本科学技術振興財団開催の年1度のイベント⇒実験ブース、ワークショップ、ステージショーなど)

③ 「工房」創立前夜と立ち上げ時

  • 湘南台高校の理科室借用 (山本さんとの出会い。第1回「ふしぎ発見塾」を開催)
  • 27回生を中心に湘南OBの支援 (30名超の支援者)

B)「工房」の活動紹介 (NPO法人として2002年4月に創立)

  • 目標:理科大好きな子どもを育てたい (点から線へ、線から面へ)。あまねく体験塾を!
  • 設立趣意(四つの見出し): 創造性を育てる教育への取組み。地域の教育力を強める仕組み。親子共々「体験」を通して学ぶ楽しさを発見する。理科教育学習支援ボランティアのネットワーク作り。
  • おもしろ科学体験塾:目的実現の一手段。
    小4~中2を対象、定員24名(スタッフ10名)。土曜日午後に開催。現在約25会場 (横浜、藤沢、横須賀・川崎にも展開中) で年間約160回開催。年間延べ3,300人が参加。
    他に出前塾を年間60回 (1,500人) 開催。学校支援、イベント出展。
  • 理念: 子どもと楽しむおもしろ科学 ⇒ 知識を教えるのではなく、科学のおもしろさを子どもに伝える・気づかせる。遊びながら学ぶ体験を!
  • 体験塾のテーマ例:酸とアルカリで作る水と色のファンタジー。牛乳パックで紙スキに挑戦。信号機を作って電気回路を学ぼう!など
  • 「工房」のボランティア: 約260人が登録 (退職者・主婦が主体、現役含む、女性が1/3)

C 「子どもたちの科学への志を育てる」活動のバラエティー紹介

  • 理科ハウス (ミニミニ科学館) / かながわ子ども教室 (出前専門) / こども大学よこはま / 藤沢市科学少年団 / 青少年のための科学の祭典神奈川大会
D) 一石三鳥の社会貢献活動 ⇒ 子どもたちを科学へ誘う。ボランティアのシニアや主婦たちには生きがい、若さと健康を。学校の先生方には地域との協業を拡げる。
「工房」の次のステップ模索中 ⇒ 低学年塾や高学年対象も検討中。23年度から事業として低学年塾「おもしろ科学forキッズ」実施。

<山本さんの講演>
E)「藤沢市科学少年団」の活動紹介
① 藤沢市科学少年団とは

  • 藤沢市内の小4~中3の団員約80名で構成。中3まで6年間在団。
  • 10人ほどの縦割り班編成で異年齢集団を形成 (中学生が小学生の面倒を見る)
  • 近隣の小中高等学校教員など有志 (卒団生含む) が運営・指導
  • 月1回の活動:自然観察を主に、理科実験・工作・見学会など。活動場所は公園・学校・博物館など (100人規模)
  • 8月は2泊3日の合宿 (主に県外)

② 創団のころ (山本さんは1999年頃から関わる)

  • 1983年4月創団、本年度で40周年
  • 海野初代団長 (当時長後小教頭) 以下12名の理科教員有志で結成
  • 自然観察を通じて科学的探究心を養い、青少年の健全育成をはかる
  • 「科学少年団」は全国初。現在でも珍しい。
  • 当初応募者500人超を抽選で135人に
  • 現団長の石井幹夫さん(52回生) は創団時からの運営委員

③ 活動内容の紹介

  • 雑草を食べる会 ・江の島の自然観察 ・物理・化学実験 ・天体観察
  • 夏の合宿 (県外、フォッサマグナが継続テーマ) ・電気工作 (ハンダゴテ)
  • 野鳥観察など

④ 「おもしろ科学たんけん工房」とのコラボレーション

  • もとは別々の動機でそれぞれの道を歩んできた2団体
  • 創設の経緯や活動の形態は異なるが
    科学教育ボランティアの目的に共通点
  • たまたま藤沢で出会い、協力関係も
  • 物価上昇など共通の課題も
  • 地域で「科学する心」を育てよう
※ 講師の安田さんから「おもしろ科学たんけん工房」の20周年誌「子どもたちと20年」及び「おもしろ科学体験塾」のテーマの解説動画 (DVD、15テーマ(テキスト付き)) をご寄贈いただきました。 歴史館で閲覧可能です。
西田 修 (47回生)