第48回湘友会セミナー報告

京都大学の歴史を考える 京都大学 大学文書館での経験から~

2016年12月10日
京都大学 大学文書館教授 西山 伸 氏(全57回生)

西山伸さんの講演は、京大への愛、仕事や歴史を受け継いでいくことへの熱い思いが伝わってくるお話で、高校時代と同じように話したいことが次々と溢れ出てくるご様子でした。

初めに同級生の土方やよいさん(旧姓 若林) が講師紹介をしてくれました。西山さんが3年8組で総務長を務めていたことに触れ、旧友から集めた高校時代のエピソードや、体育祭のときのスピーチなどを紹介。当時のクラス・カラーだったピンクのシャツで登壇した西山さんも、かつての自身の言葉に「カッコイイこと言ってるなぁ!」と嬉しそうでした。

西山さんは京都大学の大学院を修了した後、京都大学の助手として、京大百年史に関わり2001年に完結しました。そしてその後、鴨川から2分の場所にある、京都大学 大学文書館教授となりました。 (北海道 東京 名古屋 大阪 九州)

西山さんの人と なり が見えたところで「京都大学の歴史を考える」の講演が始まりました。

大学文書館とは文書を受け入れ整理して伝えていく、西山さんの言葉によれば「過去」を現在に、「現在」を未来に伝えていく仕事。文書館の教授ならでは、貴重な史料を多数参照しながら京大の歴史について語ってくれました。

前半は京都大学のユニークさについて、後半は戦争と京都大学の関係性について語られました。

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(1) 京都大学のユニークさ
京都大学は、1897年、東大の次に2番目の大学として創立された。東西両京の大学といわれた東大と京大は常に比較され、2番目にできた京都大学は、特にユニークさが求められた。二つの大学の違いについて 、京都大学ができて間もない頃(1904年に)から「京大は自由」「東大は束縛」という考えが既に定着していたことがわかる史料が残っている。

この違いには、創立時の時代背景が大きく影響している。東大は1877年創立、開国したばかりで早く海外に追いつかないといけない。憲法も法律もないと焦っていた。先生は外国人を呼んだり、優秀な人を留学させて戻すなどして、ともかく学生に勉学を叩き込むのが、ある意味手っ取り早かった。そして20年後、京都大学ができた頃には日本独自の学問ができてきていた。

西洋学問の直輸入ではなく、自分たちで研究することが重要であり、そのころには研究する土壌ができていた。研究するには、自由を与える必要がある、そういう背景があったのだ。

京都大学が自由さに重きを置いた新しい学風を立て、本当の学問を研究するための、多数の新しい試みを実践したことは評判であった。

教師と学生が同じ立場で演習を行い論文を書かせるゼミナールや、学年制に対する単位制のカリキュラムなど、京都大学が始めた新しい仕組みは今も残っている。
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(2) 戦争と京都大学
戦争への京都大学の協力について、理科系と文科系の観点で語られた。

① 理科系 <荒勝理学部教授の回想、1968年>
京都大学は国立であり、軍隊・海軍の協力要請を受けて、原爆の共同研究をしていた。
大学として、戦争とは無関係であるとして学問をしていたが、それでも研究をすることで、少しでも若い研究者を戦地に送らずに済むという思いがあった、という史料が残っている。

② 文科系 <史料:座談会 世界史的立場と日本、京都学派との交渉私史>
文系で一番有名だったのは、京都学派の中でも、哲学。西田幾多郎の弟子たち。戦争の位置づけを様々な形で発表し、それが非常に評判であった。大東亜戦争は、ある意味で倫理の戦争。

戦争に対する批判的な思いがあり、また「天皇は神である」、「日本は世界一である」といわれても、非合理的で、非常に高い知識を持った学生には理解できない、それでも戦争に行かないといけない。どうせなら納得させてくれる合理的な理論が欲しい、それが世界史の哲学であり、だから熱狂して読んだと言われている。

今ここで、戦争と京都大学との関わりについて触れたのは、当時の研究者たちを戦争協力者として指弾したいからではない。理科系においては科学がますます巨大化している今日、科学者は最先端の研究を行うだけでよいのか、あるいは文科系においては人文・社会科学が現状追認に陥りやすい性格を有していることを研究者は自覚する必要はないか、といったことについての重要な教訓がここに含まれていると考えるからである。
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(3) おわりに
いま危機にある大学。大学改革で毎年組織が変わり、学生が減り、国の予算も減っている。大学の意義を再認識する必要がある。

またノーベル賞を受賞した人が必ず言うのは、日本の基礎学問が危機にあること。すぐに役立つものにお金を掛ける傾向がある。
改めて、なぜ大学に自由が与えられているのか。大学は答えのない問いに対して、自分の頭で考えられる人を育てるべきである。当たり前と信じていることを疑い、新たな価値を創造していく、人々が豊かになるために。そういうことを考えるには、外から圧力を与えてはいけない、だから自由が与えられているのだ、と西山さんは締めくくった。

講演の後、現役の高校生を含め、多数の質疑応答が活発に行われました。
今回の講演は京都大学で半年掛けて行う授業のダイジェスト版だそうです。そんな貴重な講演を、京都から遠く離れた湘南で聴くことができ、また多くの学生が京都大学に憧れるわけに触れることができたような気がします。西山さん、本当にありがとうございました。

報告文/高梨郁子(旧姓 阪尾) (全57回生)

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