第49回湘友会セミナー報告

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糖尿病とシニアライフ(認知症予防を含めて)

38回生 伊藤 眞一 (前 全国臨床糖尿病医会会長)

■現在70歳以上では4人に1人が糖尿病と言われている。また糖尿病患者は正常人に比較して1.2倍認知症になりやすいと言われている。そこで今回その両疾患について湘友会の方々に筆者の40年にわたる臨床経験に基づいて講演させていただいたところ、多くの湘友会の方々が参集していただいた。2時間の講演の中からみなさまが特に関心を持った5点についてまとめとして報告させていただく。
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糖尿病 ポイント1 (血糖コントロール)
糖尿病と診断された患者が、どうしたら正しく治療を受け、合併症を起こさず快適な生活を送れるのか。その答えは、検診やドッグを積極的に受け、定期通院し、必ず現在の状態(病態)を把握することと、そのデータをすべてきちんと記録しておくこと、の2点につきる。診療を受ける際に糖尿病手帳を必ず支給してもらい、それを必携すること。手帳を開くと見開きに、体重、血圧、血糖、尿糖、尿たんぱく、HbA1c(過去2,3ヵ月の血糖値の平均値を示す検査で目標値7.0%以下)、(表1図1参照)脂質を書き込む表がある。すべての項目を記載し、主治医にその場で質問し、その意味を理解し、データから自分自身の病気を知る。


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糖尿病 ポイント2 (眼合併症)
糖尿病は、血中の糖が増え(高血糖)、全体の血管が徐々に傷つけられて起こる病気(糖尿病合併症)です。
ある患者さんは、検診で10年前に糖尿病と言われたが、症状もないので放置。最近、新聞の字が見にくいので眼科を受診した。「重症の糖尿病による視力障害。失明するかもしれない」と言われ、慌てて私のところに来ました。
人間の目はカメラと同じ構造です。角膜がフィルター、水晶体がレンズに相当し、網膜がフィルムの役目を果たします。
網膜には多くの血管が走り、酸素、栄養を運んでいます。糖尿病になると、その血管が破れて網膜症が発症します。光を感じる部分は直径1.5ミリのほんのわずかな網膜の一部の領域で、ここに病変が及んで自覚症状が出ます。視野に蚊のような小さな異物が見える (飛蚊症)、視野の一部が見えなくなる (視野欠損)、ものが見えなくなる (視野低下) などです。
自覚症状があてにならないので、無症状でも最低1年に一度眼科でみてもらわないと、網膜症は発見できません。自覚症状が少ないときにレーザーで網膜の病変の進行を抑える、という極めて有効治療法を受けることも可能です。進行してしまうと、よい治療法がなくなります。
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糖尿病 ポイント3 (アルコールについて)
「酒は百薬の長」と言われますが、本当でしょうか。適量の範囲内なら、ストレス発散作用がある、いろいろな人と知り合いになれる、仕事の上で腹を割った話ができるなど日常生活の上でよい点があり、善玉コレストロールを上げるなど医学的にもよいこともあります。
医師は体への影響を考える場合、次の3つのレベルに分けています。
①大酒家・・・・・毎日、日本酒5合相当を5年間以上飲み続けている
②常習飲酒家・・・毎日、日本酒3合相当を5年間以上飲み続けている
③機会飲酒家・・・宴会などの機会があれば飲み、1週間に日本酒2合相当。
①群は大変危険、③群は悪影響なし、と判断しています。アルコールはカロリーが高く、肥満を招き、血糖値を上昇させ、大量のインスリンを消費するので血糖値が下がりにくくなるため、糖尿病の人は注意が必要です。飲酒は血圧を上昇させ、①②群は③群に比較して10歳の加齢に相当する血圧値を有してしまいます。特に男性では飲酒は脳卒中の危険因子として確立されています。
さらに、飲酒は痛風の原因である尿酸も上昇させます。脂質異常症からみると、中性脂肪を上げやすい。つまみを多く取りながら飲むと、塩分とエネルギーを取りすぎ、肝臓に脂肪がつきやすい、などの弊害を十分認識してほしいと思います。「飲むべきか、飲まざるべきか」―――。①②群は「否」ですが、③群に対しては正解を持たず、ケース・バイ・ケースで対応しています。
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認知症のポイント1 普通のもの忘れと認知症のもの忘れの違い (表2)
(表2)


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認知症のポイント2
MCI (Mild Cognitive Impairment) 軽度認知障害より早期の治療開始 (図2)
認知症の多くを占めるアルツハイマー病は認知症として発症する20年前より脳にアミロイドβという物質が、脳細胞の外側に蓄積し(老人斑)、また「タウタンパク」という異常タンパクが神経細胞のなかに凝集し「神経原線維変化」を起こし、やがてこれらが、神経細胞を死滅させる。10~20年前より脳にこのような病変が起こっているが、未だ認知症とは診断できないグレイゾーンをMCIと呼び、その臨床像は以下の3点である。

  1. 本人または家族が明らかな記憶の低下を感じている。
  2. 記憶力の低下は年齢だけでは説明できない。
  3. 日常生活は支障がない。

このMCIの時期から早期治療すると図の青線のように「完治できないが病状を遅らせること」ができる。

文責  伊藤 眞一 (38回生)

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