第78回 湘友会セミナー報告

日時: 2019年6月8日(土)
場所: 湘南高校 歴史館スタジオ
テーマ: 昭和20年3月の卒業式 ~湘南中学校の思い出~
講師: 坂井 一敏 (50回生、湘友会歴史館運営委員会)

今回のセミナーは、2002年に旧制中学20回生の加藤正義氏が制作した動画「湘南中学の思い出」を20回生の先輩方と共にセミナー参加者が歴史館スタジオで鑑賞するという変則的なセミナーとなりました。

旧制中学の20回生の入学は、昭和16年4月です。この時期は、日中戦争が泥沼の様相を呈しており、同年12月には太平洋戦争が始まるという時代です。当時の湘南中学は、軍人が教官として各学校に配属され「軍事教練」がすでにカリキュラムに組み込まれていました。また昭和18年以降は、学徒勤労動員が始まり、授業の代わりに中学生は近隣の軍需工場に駆り出されます。

湘南中学の昭和20年3月の卒業式は、昭和15年入学の5年生と前述の4年生が共に20回生としてまとめて卒業するという卒業式であり、「蛍の光」の代わりに「学徒勤労動員の歌」(ああ紅の血は燃ゆる)が歌われ翌日は、そのまま工場での労働が続くという状態でした。文字にすると、何とも暗い学校の様子を想像しますが、実際にその中で暮らしていた中学生は、楽しく元気だったという模様を動画で表現したのが加藤正義氏の「湘南中学の思い出」です。

「動画で表現する」と言っても、当時の湘南中学の様子が動画で残っているわけではありません。過去に湘友会として制作した「70周年記念誌」の写真やビデオ「清明ここに学ぶ」および当時の国語や英語の教科書を駆使して、旧制中学の様子が2002年当時の映像編集技術を使って再現されています。

加藤氏が動画を制作したころは、(当時、加藤氏73歳)Youtubeやパソコンの動画編集ソフトなど便利な道具が無い時代ですから、ビデオカメラとビデオの編集技術を駆使して動画を構成するしかありませんでした。湘南高校では、先生と生徒で「プール」を手作りしたという過去の歴史がありますが、加藤氏の動画も「道具が無ければ自分で工夫して作ればいいじゃないか」という湘南らしい「自由さ」や「気風」が画面の根底に感じられます。

動画の最後の部分は、20回生の架空の卒業式が収録されています。これは、20年3月にきちんとした形での卒業式が出来なかったので、せめて動画の中で正式な卒業式をおこないたいという事で挿入されたものです。卒業式でさえも、自分達でバーチャルにとり行なったという訳です。それも学校を卒業して57年も経ってから…

今回加藤氏の動画を紹介した私、坂井は、湘友会の中で歴史館運営委員会に属しており、歴史館の過去の資料に接する機会も多いのですが、毎回、その資料の「質」の高さに驚かされます。「質」とは、その資料そのものが持っている「価値の高さ」と言うよりも、過去の記録を様々な形で残そうと作業をしてこられた先輩方のスピリットや工夫の積み重ねがそこかしこに
散見され、その執念というか「ねちっこさ」に驚かされます。

今の時代は、動画などは携帯電話で簡単に記録することができ、人に送る事ができますが、加藤氏の動画の様に制作した人の気持ちが作品から感じられるような興味深いコンテンツをWeb上で見つけることは稀です。

私個人は、40年近くコンピュータのシステム作りを生業にしてきました。今風に言えばIT業界というカテゴリーに分類される分野で仕事をしてきた訳ですが、湘南高校歴史館に保管されている膨大なコンテンツは加藤氏の作品のように興味深いものが多いので、それらをデジタルアーカイブとして保管し、サーバー上でコンテンツの検索・参照ができたら面白かろうと常々考えています。ネット上に湘南高校歴史館のようなものを構築出来ないか?という訳ですが、2019年に湘友会では5テラバイトのクラウド領域を確保したので、だれかデータベースの設計と検索エンジンを作ってくれる人はいませんかね ? (無償のボランティア作業になりますが)

坂井 一敏 (全50回生)