第81回湘友会セミナー報告「東京医科大学入試不正事件から見る現代日本社会のジェンダー平等」

開催日: 2019年9月21日(土)
場所: 湘南高校 歴史館
テーマ: 東京医科大学入試不正事件から見る現代日本社会のジェンダー平等
講師: 江原 由美子 氏 (46回生)

2018年8月2日に読売新聞など、マスコミで取り上げられたのは、東京医科大学入試で問題になった、女子受験生の得点を恣意的に減点し、女子の合格者数を抑制していたことであった。

二分される反応
東京医大に限らず、3、40年以上前からこうした点数操作を行っていると、大学関係者から聞いたことがある。読売新聞の報道では、点数操作について東京医大関係者が「必要悪」と話すコメントも掲載された。「理解できる」と回答した医師は、女性差別は良くないとしつつも、今回の騒動は“必要悪”と捉え“仕方なさ”や“諦め”を感じているようだ。

医療現場の改善を求める医師は多いが、それと同じくらい、改善を期待できないと諦めている医師もいるようだ。「医療現場の改善は必要だけど、どうせ無理」という“無力感”が医療現場に蔓延していることが伺える。

東京医科大学不正入試事件の背景
東京医科大学だけを批判するのは筋違いか?

「働き方改革は進めるが、それが完成するまでの間は、女性医師より男性医師が欲しい」というのが大学病院の本音だろう。それは、理解できる。

「では、どうすればいいんだ。点数を操作しなければ、女子ばかり合格してしまう。彼女たちが医師になってから次々と出産などで退職していくのが分かっているのに。それでは、医師不足を解消できない」という怒りとも、困惑ともつかない大学病院関係者の声が聞こえてきそうだ。

しかし、それは男女差別に当たるから許されることではない。ポリコレ (ポリティカル・コレクトネス、political correctness) だとか、建前偏重だとか言われるかもしれないが、差別をなくすことは大学病院の医師不足解消よりも優先度の高い問題だからだ。

変えるべきは働き方
日本の会社における働き方というのは、男性でとことん残業を厭わずに働く人たちを前提に作られたルールなんです。その分だけ男性の価値が上がっていってしまうんです。 まったく平等にやったら、育児と両立する女性にとっては圧倒的に不利なワークルールなのです。
そのため、昇進機会が当然少なくなってしまうわけです。もともとがフェアなルールではないという前提を忘れて、「いや、平等なんだ」と経営者が言っていると、これでは前に進まないんです。

ジェンダー平等はシステムの変革を不可避に
日本型システムは長時労働できる人間のみを「普通の労働者」とし、それができない人を、「非正規労働者」として差別してきた。この体制を変えないまま、男女間格差をなくそうとしても、夫婦とも「普通の労働者」をすると「家庭生活が回らな」くなり、結果として女性が離脱。職場では、女性は使えないという認識が定着。男女間格差の持続。GGI 110位 (2018)。

企業側は、皆がやっているから仕方がない、罪がない人だけが石を投げられるという言い訳。結局変えなくて良いということを正当化している。

医学界の場合、資格の効果から、非正規労働でも賃金は低くならないという特異性があり、そのことが女医を一層通常の病院勤務から遠ざける。それが女性医師に対する批判を強化。(非正規労働のほうが時間単位当たりの賃金が高くなるべきという意見もある。女医問題は、非正規労働者賃金格差解消の効果についての社会的実験場になるかもしれない。)